可愛らしくも妖しい「貂明朝」登場
貂明朝はアドビのチーフタイプデザイナー、西塚涼子のデザインによる新しいアドビオリジナルの和文書体です。この新書体が Typekit の書体ライブラリーに追加されました。Typekit の書体ライブラリーのフォントは、Web 用フォントとしても、また同期することで PC 上のデスクトップフォントとしても利用可能です。Creative Cloud の有料プランにご登録の場合、追加料金なしでご利用いただけます。
貂明朝を従来の明朝体から際立たせている特徴は、躍動感のある手書きの文字の特徴に加え、江戸時代の瓦版印刷に見える運筆の特徴も取り入れていることです。伝統的な明朝体の画線の先端を丸め、やや太めに仕上げ、ふところは小さめにしています。貂明朝は、広告コピー、書籍・出版物のタイトルなど幅広い用途でご利用いただけます。
信じられないかも知れませんが、SVG グリフの中には、可愛らしい貂の姿をしたグリフも隠されています。貂明朝は 12 世紀の鳥獣戯画などに描かれた愛らしい小動物の姿にもインスパイアされています。
「一般的に、明朝体は大きく分けて、伝統的な様式と現代的な様式とに分けることができると思います」と西塚涼子は述べて、次のように続けています。「汎用性の高い明朝体をまったく別の方向性で実現できないか、いつも考えていました。あるとき見た手書きの仮名に愛らしさを感じ、そこから伝統的でありながら、すこしユーモアのある明朝体のイメージが湧きました」
貂明朝にはフルセットの欧文グリフが含まれています。その欧文グリフは Ten Oldstyle という書体名が付けられたもので、アドビの Type 部門のプリンシパルデザイナー、ロバート・スリムバックがデザインしたものです。手書きのカリグラフィがもつ素早い筆致と、イタリアルネサンスの古典的人文主義様式の本文用活字書体のもつ実用性とを、Ten Oldstyle は兼ね備えています。
この欧文はきわめて機能的で十分に応用の効くデザインですが、日本語フォントでは普通は見かけることの少ない OpenType フィーチャーを含んでいて、スモールキャップと罫表組み用数字、オールドスタイル数字等々にも対応し、さらにイタリック体も備えています。
共同作業によるデザイン
貂明朝に調和のとれたタイポグラフィックな統一性を与えるため、西塚涼子とロバート・スリムバックの二人は、デザインの全工程で、情報交換を緊密に行いました。
「しかし予想以上に難しく、ディスプレイ書体でありながら、ある程度の長文も組めるようにしたかったので、どうしたら伝統的な基本を大きく崩さずにそれを実現できるか、デザインを確定するのに難航しました」と述べた上で、西塚は次のように語っています。「そのような明朝体を作り上げるには、かなりの研究が必要でしたし、仮名ほど大胆な表現ができない漢字に表情を持たせるために、何度も大掛かりな修正を繰り返さなければなりませんでした」
西塚は貂明朝の作業を粘り強く続けました。そのデザインの方向性がはっきりと定まりつつあった頃、スリムバックによる欧文のセリフ書体のデザイン作業がかなり進んでいることを知り、そのカリグラフィの傾向を強くもつデザインに感銘を受けます。西塚は述べています。「その欧文は様式的に貂明朝とよく調和するに違いないと思いました。それをベースに、さらに貂明朝と良く合うデザインに発展できないか、ロバートと相談したのです」
スリムバックは、当初から、このプロジェクトは興味深い本質を含んでおり、しかもチャレンジに満ちたものに見えた、と記しています。「和文と欧文は、構造的にも、位置の揃えについても、文字の形のプロポーションにおいても、はじめから自然に上手く釣り合ものではありません。そのため、機能的にも一般的な外見上も、貂明朝と上手く合う欧文書体を構想することは、特別なチャレンジでした」
共同作業の最初の頃から、西塚はスリムバックの仕事に感銘を受けていました。「欧文と和文とで、文字の個々の部分の形は違っていても、同じ意図を共有することでコラボレーションができるという確信を持つことができました」と西塚は語っています。
本文のタイポグラフィには、デザイナーにとって便利な出発点を示した属性がいくつかあります。スリムバックは次のように述べています。「貂明朝全体をとおして、そこには人間の手の存在が明らかに認められます。和文と欧文の本文用書体がともに手書きを基礎としていること。そのことが、実際の書き方には類似性がなくても、和文と欧文とを視覚的に結びつける手段となったのです」
西塚は自らのデザインに対する取り組み方について、同様の考えを述べています。「和文と欧文のデザインを調和させるには、どこの部分を合わせるかポイントになります。私の好みでは、詳細なところまで合わせるよりもそれぞれの時代感や全体の太さ、カウンタースペースの広さといった大まかな所を合わせていくことにより、お互いに引き合ってくると思っています」
二人のデザイナーが直接会って話し合うことで、スケッチを見せ合ったり、共有できたタイプフェイスに対する展望をどのよう融合させ、貂明朝の本質をスリムバックの欧文グリフ(字体)に移植することができるかについて、理解を深めることができました。
この共同作業は、貂明朝の欧文と和文の双方の要素にいくつかの変化をもたらしました。スリムバックはより良いバランスのためにセリフを太め、西塚は、欧文とのバランスも考慮し、書体本来の躍動感が失われないよう注意しながら、日本語用のグリフのいくつかを調整しました。西塚は次のように述べています。「明朝体の伝統とある種のユーモアを兼ね備えた形に仕上がったと思っています。このような歩み寄りは、まさにコラボレーションならではのもので、まったく別々にデザインしていたら出来なかったと思います」
今後、色付きの SVG グリフや OTC への展開も
今回リリースした貂明朝には、白黒の、いくつか楽しい形をしたグリフ(字体)が含まれていますが、それらを色付きの SVG グリフにしたバージョンの貂明朝は 2018 年に導入されることになると予想されます。
その時点では、貂明朝の OpenType Collection(OTC)版も入手可能になっているでしょう。前回リリースした源ノ明朝や源ノ角ゴシック(Pan-CJK)フォントのようなオープンソースの OTC フォントの場合と異なり、貂明朝の OTC フォントは、有償での販売だけの製品となります。
現時点では、貂明朝は、web フォントとして、あるいは同期することで PC 上のデスクトップフォントとして、Typekit だけから利用可能です。貂明朝開発の詳細については、CJK Type Blog をご覧ください。
貂明朝についてご意見、ご質問等ございましたら、support+jp@typekit.com までお知らせください。